「ン」で始まる言葉も⁉︎ 沖縄を詳細に記した最初で最後の『沖縄大百科事典』とは?
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約 7 分
沖縄
沖縄ののんびりした時間概念をいう。沖縄の社会では時間にたいする考え方が緩やかで、集会など定刻になっても人が集まらず、1時間も遅れて開会する場合が多い。主催者側も心得ていて、いたってのんびり構えている。
この引用した一文は、沖縄大百科事典に載っている「オキナワ・タイム」を引いて出てきた言葉だ。そして、以下へとこう続く。
沖縄の人のこだわりのない一面をよく表しているが、1秒を生きる現代の能率社会に適応していくには第一に克服すべきものである。裏を返していえば、それだけ沖縄はまだ現代に毒されていないおおらかな時間を生きているともいえる。
沖縄大百科事典は、沖縄タイムス社が創刊35周年を記念して1983年に発行した百科事典である。上中下3巻と別巻1冊からなるこの書物は、定価55,000円という破格の値段だ。
沖縄タイムスの記事によると、総経費は約7億5千万円、1万7011項目を収録し、制作までに3年、1046人の研究者が執筆に参加したというなんとも規格外の事典である。
「百科事典」という言葉に馴染みがない方に説明しておくと、”あらゆる科目にわたる知識を集め、これを部門別やアルファベット順・五十音順などに配列し、解説を記した書物のこと”(Wikipedia)である。
こうやってネットを使って簡単に調べることがまだできない時代にとって、百科事典は貴重かつ信頼できる情報源になり得るのだ。
そして、知っている限り、発刊から30年以上が経った今でも、これ以上に沖縄のことについて詳細に記した百科事典はない。
先ほど引用したオキナワ・タイムは、今でもよく「ウチナータイム」といわれる言葉で良くも悪くも沖縄の生活文化に根付いている。「1秒を生きる現代の能率社会に適応」せず、「現代に毒されていないおおらかな時間を生きている」のは、30年ほど前からほとんど変わっていないというから驚きである。
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沖縄大百科事典の特徴
当時、全国では地域百科事典の刊行が盛んであり、沖縄大百科事典も例外ではなかったようだ。ただ、沖縄の場合、ほかとは事情が少し異なる。
1972年の施政権返還以降、沖縄の社会、経済、文化は大きく変わり、自然破壊もあり“沖縄喪失”との危機感があった。沖縄タイムスの創刊メンバーだった豊平良顕さんらによって「沖縄の文化と自然を守る十人委員会」が結成され、その提言が「沖縄喪失の危機」という本にまとめられた(76年)ほど。復帰後の混乱と激動は続き、世論調査でも「復帰して良かった」という意見は少なく、これから沖縄はどうなるか、どう生きるかが当時の大きな課題だった。
——2013年7月1日 沖縄タイムス特集面
上巻の”刊行の辞”にあるように「過去と現在を知り、未来像を考える道標(みちしるべ)」となるよう期待が込められている。沖縄の問題意識に対する使命感が、これだけ膨大な量をわずか3年という期間で刊行できた理由でもあろう。
実際に1万7千項目が精査される前は、関連だけでも約7万項目の候補を洗い出したそうだ。もしこれが全て載るとしたら、あと9冊増えていたことになる。
そんな経緯がある沖縄大百科事典。ならではというか特徴を紹介したい。もし、あなたがこの辞書を手に入れてみたいと少しでも思うなら、約8万の特徴の中から5つ精査したのでご覧いただきたい。
とにかく分厚い
これに尽きる。
他県の百科事典は1巻完結がほとんどのものに対し、これは4冊もある。
iPhone6と沖縄大百科事典を見てみると、比べようのない分厚さだ。一眼レフカメラのレンズは重くても気にしない派だが、書物が重いのは気になる派だ。レンズの重みは性能の代償と思えても、本の重みは知識の恵み、とは思えなかった。
持ち運びはしないため、自宅でしか見ない。それゆえ、図書館でしか体験できなかった持ち出し厳禁書物を自宅でも味わうことができる。
できれば電子書籍化してどこでも見られるようになってくれたら嬉しいのだが、なにせ30年以上経過した今でも改訂版の予定がない代物だ。どっちかというと新版を切望したいぐらいである。
「ン」で始まる言葉がある
沖縄のことばでしりとりを始めたら終わることがないという都市伝説を聞いたことがある人は少なくないだろう。 しまくとぅばでは、確かに「ン」で始まる言葉が存在するのだ。
あなたがもし、しりとりで勝たなければいけない状況に立たされたとき、この辞書を片手に勝負に挑めば負ける気はさらさらしないだろう。それと同時に「負ける気がさらさらないやつだ」と相手に思わせることができるだろう。
あなたはさらさら負けないのだ。
ただし注意しておきたいのは、琉神マブヤーになれる回数は19回までだ。
索引は別巻で
4冊もあれば調べたい語彙を探すのだけで精いっぱいだが、実は4冊目が索引になっている。沖縄の記録がなんでも載っている(後述)資料でもある。
この本があれば3巻分約1万7千の項目名が全部記載されているため、別巻には沖縄大百科事典の全てが詰まっているといえる。唯一持ち運びができる大きさであるので、出先で「沖縄大百科事典にあのワード載っていたっけな」となったときに容易に調べることができる。
ただし、項目名だけなので意味を調べることはできない。
とにかくなんでも載せる
別巻の目次はこのようになっている。当時の沖縄の記録を残すべく、ありとあらゆるものがリスト化されているのだ。
こちらは市町村変遷図(38p)の一例。首里はかつては真和志之平等、南風之平等、西之平等が合併してできたことがわかる。
沖縄県の文化財(45p)には県の天然記念物や指定年月なども記載されている。ジュゴンは昭和47年5月15日に天然記念物として指定されていることがわかる。
沖縄県の薬用植物一覧(61p)。効用別に植物が記載されているが、知らないものがほとんどだ。例えば、ガジュマルの葉は発汗・解熱薬として使え、4~8g煎じて服用すればよいらしい。
食欲がないやつにはゴーヤーを投げつければいい。
沖縄のことばで探す
県内最大のコンビニ数を誇る「沖縄ファミリーマート」がまだ設立されていない時代でも、コンビニエンス・ストアという言葉はすでに沖縄大百科事典には載っている。
ただし、ここで「コンビニエンス・ストア」と探しても調べられないのが沖縄大百科流。なぜなら沖縄のコンビニは「マチヤグヮー」だからだ。
ゴーヤーもまたしかり。ゴーヤーと探すと「ニガウリ」で探してくださいと出る。上巻から下巻へと行き来しなければならない。
沖縄大百科流はときに残酷なのである。
この事典が指し示す道標とは
この事典には当時の”沖縄”が色濃く残されていることは想像できるだろう。沖縄の社会、経済、文化がめまぐるしく変化している時代の記録であり、過去といまを知る重要な資料である。発行された3万部が、いま、どれぐらい残っていて、どこにあるかなんて全く検討がつかない。
最後に。刊行した沖縄タイムス社は、自社紙が創刊する2日前に号外を出すというジャーナリズム精神を持ち合わせている。
この精神のもとで制作された本の重要性を認識し、制作者や関係者を敬服するとともに、熟読して沖縄について考えるきっかけにしたい。
沖縄タイムス記事データーベース / 沖縄大百科事典(Amazon)

8万の特徴以外は信頼できるソース源です。
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